山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第9章 生まれ変わる瞬間
「お前、澄ました顔してただろ、あれでびびってたのか?」
揶揄された凛花は肩を竦めた。
「あれで、心臓はバクバクいってて、もう卒倒しそうなくらいだったのよ?」
「嘘だろう。俺には、全然そんな風には見えなかったぞ。全く、お前はたいした役者だな」
そこでインスも笑う。
「マ、あのときは俺も内心は焦ったんだ。―でも、俺たちが怖れてた事態は起きなかった。役所の連中皆がお前の働きを認めたんだ。お前の成し遂げたことは凄いと、誰にもできることではないと心から認めたんだ。凛花、お前は民から認められた立派な暗行御使として歴史に名を残したんだ」
「インスってば、大袈裟ねえ。そんなたいしたことなんて、何もしてないのに」
凛花は湖に背を向け、インスと向き合った。
ちらちらと舞っていた雪はいつしか止んだようだ。
凛花はチョゴリの袖に薄く積もっていた雪を手で払い落とした。
裁きを終えてから、凛花はまたチマチョゴリを纏い、娘姿をするようになった。この村に残り、名もなき民の一人としてこの地に骨を埋めると究極の決断をした後、凛花は村長に気持ちを打ち明けた。また、これまで正体を偽っていたことを心から詫びた。
凛花を孫のように可愛がっていた村長は気を悪くするどころか、手放しで歓び、凛花はこれまでどおり村長と暮らしている。
「新しい県監が来て、これからは山茶花村も少しは住みやすくなるでしょう。私はここでただの一人の女となり、あなたと共に暮らしたい。たとえ身分や名などなくても良いから、良人を持ち、子を作り、平凡な暮らしがしたいの」
「凛花、―ってことは、もしかして、俺の嫁さんになってくるってことだよな? そう思って良いんだよな」
インスの声が弾んだ。
「インスがくれたお守り、ずっと持ってたのよ。これがあったから、私はあなたの許に帰ってこられたのかもね」
凛花は袖から小さな巾着を取り出し、手のひらに白蝶貝の首飾りを落とした。
「ねえ、インス。一つだけ、言って欲しい言葉があるの」
「何だ?」
インスが不思議そうに訊ねると、凛花は微笑んだ。
揶揄された凛花は肩を竦めた。
「あれで、心臓はバクバクいってて、もう卒倒しそうなくらいだったのよ?」
「嘘だろう。俺には、全然そんな風には見えなかったぞ。全く、お前はたいした役者だな」
そこでインスも笑う。
「マ、あのときは俺も内心は焦ったんだ。―でも、俺たちが怖れてた事態は起きなかった。役所の連中皆がお前の働きを認めたんだ。お前の成し遂げたことは凄いと、誰にもできることではないと心から認めたんだ。凛花、お前は民から認められた立派な暗行御使として歴史に名を残したんだ」
「インスってば、大袈裟ねえ。そんなたいしたことなんて、何もしてないのに」
凛花は湖に背を向け、インスと向き合った。
ちらちらと舞っていた雪はいつしか止んだようだ。
凛花はチョゴリの袖に薄く積もっていた雪を手で払い落とした。
裁きを終えてから、凛花はまたチマチョゴリを纏い、娘姿をするようになった。この村に残り、名もなき民の一人としてこの地に骨を埋めると究極の決断をした後、凛花は村長に気持ちを打ち明けた。また、これまで正体を偽っていたことを心から詫びた。
凛花を孫のように可愛がっていた村長は気を悪くするどころか、手放しで歓び、凛花はこれまでどおり村長と暮らしている。
「新しい県監が来て、これからは山茶花村も少しは住みやすくなるでしょう。私はここでただの一人の女となり、あなたと共に暮らしたい。たとえ身分や名などなくても良いから、良人を持ち、子を作り、平凡な暮らしがしたいの」
「凛花、―ってことは、もしかして、俺の嫁さんになってくるってことだよな? そう思って良いんだよな」
インスの声が弾んだ。
「インスがくれたお守り、ずっと持ってたのよ。これがあったから、私はあなたの許に帰ってこられたのかもね」
凛花は袖から小さな巾着を取り出し、手のひらに白蝶貝の首飾りを落とした。
「ねえ、インス。一つだけ、言って欲しい言葉があるの」
「何だ?」
インスが不思議そうに訊ねると、凛花は微笑んだ。