山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第3章 策謀
王妃の背後に控える後見、即ち外戚の朴真善の存在があまりに大きすぎたからでもあった。
現国王清宗はけして暗君ではないが、生来病弱で、更に気が弱い。真善の専横を内心では苦々しく思いながらも、結局、肝心の右議政の前に出ると何も言えなくなってしまうのだ。国王ですらその有り様ゆえ、議政府の三政丞のうちの最高職領議政、更に右議政よりも格上のはずの左議政のどちらもが真善に遠慮して、単なるお飾りに成り下がっている。
今や朴真善の独壇場であった。政はすべて真善が取り仕切っている感がある。真善の専横はおさまるどころか、日々極まり、干害や水害によって不作の年も租税は一方的に厳しく徴収され、疫病が蔓延しても何の手立ても打たず、救済の手は差し伸べない。
民の怨嗟の声はかつてないほどに募り、右議政に対する不満はいつ暴動が起きてもおかしくはないところまで膨れ上がっていた。
かといって、それだけで義禁府が動くはずがない。事の起こりは、国王への上奏文に密告めいた書状が紛れていたことから始まった。
数ヵ月前に遡るある日、国王の住まう大殿(テージヨン)の壁に矢が射かけられた。もしや国王殿下暗殺では? と、誰もが浮き足立ち、王宮内は一時、騒然としたが、その件は不思議なことに、数日でおさまった。
というのも、矢には小さな紙片が巻き付けられていて、それは王に対する上奏文であったからだ。文の内容は、
―畏れ多くも国王殿下を蔑ろにし、政を欲しいままにする右議政に不正の兆しあり。ネタン庫の財宝を右議政がひそかに横流ししております。
と綴られ、更に次には右議政と結託して横流しした商品を町で売りさばいている商人の名まで記されていた。密告者は更にあるべからざることを告発していた。
現国王清宗はけして暗君ではないが、生来病弱で、更に気が弱い。真善の専横を内心では苦々しく思いながらも、結局、肝心の右議政の前に出ると何も言えなくなってしまうのだ。国王ですらその有り様ゆえ、議政府の三政丞のうちの最高職領議政、更に右議政よりも格上のはずの左議政のどちらもが真善に遠慮して、単なるお飾りに成り下がっている。
今や朴真善の独壇場であった。政はすべて真善が取り仕切っている感がある。真善の専横はおさまるどころか、日々極まり、干害や水害によって不作の年も租税は一方的に厳しく徴収され、疫病が蔓延しても何の手立ても打たず、救済の手は差し伸べない。
民の怨嗟の声はかつてないほどに募り、右議政に対する不満はいつ暴動が起きてもおかしくはないところまで膨れ上がっていた。
かといって、それだけで義禁府が動くはずがない。事の起こりは、国王への上奏文に密告めいた書状が紛れていたことから始まった。
数ヵ月前に遡るある日、国王の住まう大殿(テージヨン)の壁に矢が射かけられた。もしや国王殿下暗殺では? と、誰もが浮き足立ち、王宮内は一時、騒然としたが、その件は不思議なことに、数日でおさまった。
というのも、矢には小さな紙片が巻き付けられていて、それは王に対する上奏文であったからだ。文の内容は、
―畏れ多くも国王殿下を蔑ろにし、政を欲しいままにする右議政に不正の兆しあり。ネタン庫の財宝を右議政がひそかに横流ししております。
と綴られ、更に次には右議政と結託して横流しした商品を町で売りさばいている商人の名まで記されていた。密告者は更にあるべからざることを告発していた。