山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第3章 策謀
到底、庶民が書いたとは思えない、流麗な手蹟の書状であった。恐らくは下級・中級官吏が現状を見かねて匿名で上奏したものと見当はついた。手紙に独特の言い回しが見られることから、集賢(チツピヨン)殿(ジヨン)の学者(ソンビ)が記したとも思われたが、清宗は、手紙の主を追及せず、この書状についても一切、口外を禁じた。幸いにも、矢に書状がついていたことを知るのは、清宗の側に控えていた老齢の大殿内官と若い内官の二人、更に大殿尚宮他、数名の女官であった。
いずれの者も口は固く、信用できる者ばかりなのが幸いし、密告文について他に洩れることはなかったのだ。次いで、清宗はひそかに王命を下し、義禁府に朴真善と商人李(イ)蘭(ラン)輝(フィ)捕縛を命じた。
もっとも、捕縛の王命が下ったからといって、すぐに逮捕するわけではない。そのために必要十分な証拠を集め、相手に寸分の隙も与えず、言い逃れができないように状況証拠をきっちりと揃えるのだ。
そして、今夜、文龍はその任務を帯びて待機していたのであった。
ネタン庫は、国の宝物―王室の財宝を管理する場所である。管理を担当するのは内侍(ネシ)府(プ)で、倉庫の鍵は内侍(ネシ)府(プ)長(サ)が持っていた。つまり、ネタン庫の開け閉めが自在にできるのは内侍府長だけなのだ。
ネタン庫は、亡国の危機―例えば、干魃や豪雨、更には疫病などのように国が深刻な事態に陥った際、臨時に開かれることがあった。ネタン庫の宝物を商人に公に売り渡し、その金で民に粥をふるまったり、その他必要な支援物資を支給するのだ。
つまり、王室が民に慈悲を施すのである。そうなると、両班たちも知らぬ貌はできず、ネタン庫が開けば、時の大臣や官僚たちも皆、揃って屋敷の蔵を開け、私財を売って民の救済に充てた。
この度、気の弱いといわれている清宗がついに右議政捕縛の王命を下したのも、本来であれば窮民のために開かれるべきネタン庫を勝手に開けて、あまつさえ財宝を私していることが大きな決め手となった。
いずれの者も口は固く、信用できる者ばかりなのが幸いし、密告文について他に洩れることはなかったのだ。次いで、清宗はひそかに王命を下し、義禁府に朴真善と商人李(イ)蘭(ラン)輝(フィ)捕縛を命じた。
もっとも、捕縛の王命が下ったからといって、すぐに逮捕するわけではない。そのために必要十分な証拠を集め、相手に寸分の隙も与えず、言い逃れができないように状況証拠をきっちりと揃えるのだ。
そして、今夜、文龍はその任務を帯びて待機していたのであった。
ネタン庫は、国の宝物―王室の財宝を管理する場所である。管理を担当するのは内侍(ネシ)府(プ)で、倉庫の鍵は内侍(ネシ)府(プ)長(サ)が持っていた。つまり、ネタン庫の開け閉めが自在にできるのは内侍府長だけなのだ。
ネタン庫は、亡国の危機―例えば、干魃や豪雨、更には疫病などのように国が深刻な事態に陥った際、臨時に開かれることがあった。ネタン庫の宝物を商人に公に売り渡し、その金で民に粥をふるまったり、その他必要な支援物資を支給するのだ。
つまり、王室が民に慈悲を施すのである。そうなると、両班たちも知らぬ貌はできず、ネタン庫が開けば、時の大臣や官僚たちも皆、揃って屋敷の蔵を開け、私財を売って民の救済に充てた。
この度、気の弱いといわれている清宗がついに右議政捕縛の王命を下したのも、本来であれば窮民のために開かれるべきネタン庫を勝手に開けて、あまつさえ財宝を私していることが大きな決め手となった。