或空の群青
第2章 愛し苦しや
そんな嫌な気持ちを
背負いながらも
私は結局快楽には弱く、
次の日の夕方には
のんちゃんの家の前に
突っ立っていた。
チャイムを押す前に、
夕方の赤黒い雲に
私は目を細めた。
そして一つため息を吐いて
ボタンをゆっくりと押す。
♪ピンポーーン…
「ゆきちゃんっ…?」
ガチャッとドアが開き、
私はすぐに家の中に
入れられた。
エアコンが効きすぎた
のんちゃんの部屋に行き、
私はいつもどおり
ソファーに腰掛ける。
「ちょっと待ってて。
飲み物取ってくるからね。」
のんちゃんがふわっと笑うと
のんちゃんの周りには
いつも花が咲いたように
甘い雰囲気が出る。
「うん!」
私はなんだかもう
穏やかな気持ちになっていた。
部屋をぐるっと見渡す。
フローラルの香水の匂い。
すっきり整頓された本棚。
清潔感が漂うベッド。
ぬいぐるみは少ない。
リボンやフリルもない。
のんちゃんは
女の子らしい物に
あまり興味がない。
そのわりに顔立ちは
くっきりとしていて、
ギャップがまた
女らしさを醸し出していた。
カチャッ
「ん~?お待たせ」
のんちゃんが美味しそうな
紅茶を運んで戻ってきた。
「はい。今日ゆきちゃんが
来るから買ってきたの。
お気に入りのハーブティー。」
「うん、ありがとう。」
上品なカップを手に取り
一口飲んでみる。
甘さは控えめだが
爽やかな温かさが
口の中に広がって、
冷房の効きすぎた部屋に
入った私にはぴったりだった。
「美味しい…?」
のんちゃんがうっとりと
私を覗き込んでくる。
「温かくて美味しい。」
私はもう一口口に含んだ。