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完熟の森

第42章 ハタチの僕

でも、ここはあの季節の香りがなかった。


優しく僕を包む風もない。


無性に孤独を感じると、雑踏の中、居もしない雫の姿を探してしまう自分に気づく。


僕の中で雫は優しく微笑む。


僕の耳には「千晶…」と囁く雫の声がまだ微かに残っていた。


僕は苦しくなる。


狂おしく愛しい雫を抱き締めたくて、出来なくて、動けなくなる。


心が、体が、雫を覚えていてどうにもならない。


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