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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第2章 其の弐

 また、沈黙。美空は穴があれば今すぐにでも入りたいと思うほど、身も世もない心地だった。恥ずかしさは静かな刻が長引けば長引くほど強くなり、もうその場から逃げ出したいとさえ思う。
 やはり、流石に呆れられたのかもしれない。滲んだ涙を慌てて眼をまたたかせて乾かしたその時、孝太郎がふいにクッと笑った。
 〝え〟と、信じられない想いで見つめると、何がおかしいのか、孝太郎はクックッと我慢できないというように声を立てて笑う。ひとしきり笑った後、孝太郎は美空を眼を細めて見つめた。
「やっぱり、お前は可愛いな」
 だが、美空にとっては、あからさまに笑われたことも〝可愛い〟と言われたことも、けして良いように解釈はできなかった。持ち前の負けん気がまたしてもむくむくと頭を持ち上げてくる。
「笑わないで、私は真剣なのよ」
 思わず頬を膨らませると、孝太郎は小さく肩をすくめた。
「済まねえ、別にお前の言ったことを笑ったわけじゃない。気を悪くしたのなら、誤るよ」
 美空は孝太郎を真正面から見つめた。勇気を要したけれど、ここまで来たからには、はっきりさせておいた方が良いのかもしれないとも思う。お互いにこのままの関係をずるずると続けても、その先に待ち受けるものは、哀しい現実―別離だけのように思えたからだ。
 いずれ知らなければならないことなら、今、知ったとしても状況はたいして変わらないだろう。辛いけれど、現実から眼を背けることはできないのだから。
「孝太郎さん、私はあなたのことを何も知らないのよ。あなたがどこに住んでいるのかも、ご家族がどんな人たちなのかも―本当に何も知らないわ。そんな状態で一体、私にあなたの言葉の何を信じろっていうの? こんなことは考えたくもないし、言いたくもないけれど、あなたが私をただの遊び相手だとしか見ていないと思ったって仕方ないじゃない」
 刹那、孝太郎の切れ長の双眸が美空を射るように大きく見開かれた。
 その整った面に烈しい衝撃がひろがる。
 いつも賑やかで陽気な孝太郎だが、これほどまでに己れの感情を露わにしたさまを見たことはない。つまりは、美空の放ったひと言が、そこまで孝太郎に打撃を与えたということだ。

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