
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第3章 其の参
随明寺の絵馬堂の前でこの男から聞いた恋の歌が脳裡に甦る。
そう、この男に自分はたった一瞬で心奪われた。一生、この人の傍にいると自分で決めたことなのに、どうして、その人の心を片時でも疑い、信じることができなかったのか。
美空は、このときほど我身の心の弱さが口惜しいと思ったことはなかった。
「馬鹿だな、俺が歓ばないはずがないじゃないか。お前が俺の子を生んでくれるんだ。こんなに嬉しいことはねえさ。お前、気の回しすぎだぞ、美空」
孝太郎の大きな手が美空の頭に乗り、その手が乱れた髪のひと房を掬い取る。そのひと房を優しく梳きながら言う孝太郎のさりげないひと言が心に滲みた。
孝太郎が美空の髪から手を放し、改めて白い小さな手を取った。
美空の手の指には無数の疵ができている。ひび割れやアカギレだらけの手を良人に見られるのには抵抗を憶えた。急いで引っ込めようとするのを孝太郎は咄嗟に強く掴み、引き寄せる。
しげしげとその指一本一本を眺めながら、少し自嘲気味に呟いた。
「酷い疵になってる。痛むだろう?」
まるで自分のことのように辛そうに顔を歪ませる孝太郎の眼には光るものがあった。
「俺はお前にこんなにも苦労をさせているんだな。何が守ってやるだ、口でばかりたいそうなことを言って、笑わせるぜ。男として自分で自分が情けねえや」
美空は淡く微笑んだ。
「良いの、私には、あなたがずっと傍にいて、あなたの顔をこうして毎日見ていられる―そのことがいちばんの幸せなんだから。だから、そんなに哀しい顔をしないで。あなたにはいつも笑っていて欲しい。あなたが哀しそうな顔をすれば、私までが哀しくなってしまうから」
そう、この男の傍にいて、いつもその屈託ない笑顔を見ていられるだけで良い。
このひとの傍にいるのが私の幸せ。改めて男への愛おしさが奥底から突き上げてくるように湧いた。
そう、この男に自分はたった一瞬で心奪われた。一生、この人の傍にいると自分で決めたことなのに、どうして、その人の心を片時でも疑い、信じることができなかったのか。
美空は、このときほど我身の心の弱さが口惜しいと思ったことはなかった。
「馬鹿だな、俺が歓ばないはずがないじゃないか。お前が俺の子を生んでくれるんだ。こんなに嬉しいことはねえさ。お前、気の回しすぎだぞ、美空」
孝太郎の大きな手が美空の頭に乗り、その手が乱れた髪のひと房を掬い取る。そのひと房を優しく梳きながら言う孝太郎のさりげないひと言が心に滲みた。
孝太郎が美空の髪から手を放し、改めて白い小さな手を取った。
美空の手の指には無数の疵ができている。ひび割れやアカギレだらけの手を良人に見られるのには抵抗を憶えた。急いで引っ込めようとするのを孝太郎は咄嗟に強く掴み、引き寄せる。
しげしげとその指一本一本を眺めながら、少し自嘲気味に呟いた。
「酷い疵になってる。痛むだろう?」
まるで自分のことのように辛そうに顔を歪ませる孝太郎の眼には光るものがあった。
「俺はお前にこんなにも苦労をさせているんだな。何が守ってやるだ、口でばかりたいそうなことを言って、笑わせるぜ。男として自分で自分が情けねえや」
美空は淡く微笑んだ。
「良いの、私には、あなたがずっと傍にいて、あなたの顔をこうして毎日見ていられる―そのことがいちばんの幸せなんだから。だから、そんなに哀しい顔をしないで。あなたにはいつも笑っていて欲しい。あなたが哀しそうな顔をすれば、私までが哀しくなってしまうから」
そう、この男の傍にいて、いつもその屈託ない笑顔を見ていられるだけで良い。
このひとの傍にいるのが私の幸せ。改めて男への愛おしさが奥底から突き上げてくるように湧いた。
