
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第6章 第二話・其の弐
「―ご自分が何を仰せになっているか、ご存じでございますか?」
俊昭は、にこにこと笑いながら頷く。
「もちろん。ここだけの話だが、いずれ孝太郎どのも側室を持つことになろう。幾ら孝太郎どのが拒もうと、それは尾張家の当主に課せられた宿命ともいうものだ。一人でも多くの子をなすことが当主の使命だからな。たとえ孝太郎どの当人がそう望まずとも、そうせざるを得ぬようになってゆく。それは何も孝太郎どのが悪いわけではない。何故なら、藩主、それも御三家筆頭ほどの家ともなれば、当然のことだからだ」
「一体、何が仰せになられたいのでございますか?」
美空が俊昭を睨みつけると、俊昭は鷹揚に頷いた。
「どうせ孝太郎どのも他の女とよろしくやるのだ。正直申して、ここに来るまでは評判だけの見かけ倒しの女、尾張藩主のご簾中の座欲しさに女には疎い孝太郎どのをまんまと丸め込んだ女だろうと考えていた。だが、なかなかどうして、良い女ではないか。私はそなたをひとめ見たときから気に入った」
何て勝手な理屈だろう。これも〝男の理屈〟というものなのだろうか。
こんな男がいるから、世の中には男に良いように騙されて泣く女が後を絶たないのだ。
しかし、相手は孝俊の従弟である。その怒りをまさかそのまま相手にぶつけるわけにはゆかない。
美空は憤りを抑え、低い声で言った。
「私は孝俊さまの妻であり、世継徳千代君の母でもあります」
妻であることだけでなく、母親であると言えば、相手も気圧されると思ったのだが。
生憎と、相手は美空よりも狡猾、こういった恋の駆け引きについては百戦錬磨らしい。
美空の言葉もさらりと受け流し、平然と言った。
「それがどうした? 母親だって女だぞ? 孝太郎どのが側室を置く日は、恐らくそう遠くはないだろう。そうなったときのことを考えてみたことがあるか? 独り寝の夜が淋しくてたまらぬはずだ。私がその孤独を慰めてやろうと言っているんだ。なに、そう難しく考える必要はない。ちょっとした気分転換と思えば良い。その相手が私だというのはそう悪い話ではないと思うが?」
「その気分転換とやらをなさりたいのであれば、どうぞ、他の女の方の許へお行きなさいませ。生憎と私は間に合っております」
俊昭は、にこにこと笑いながら頷く。
「もちろん。ここだけの話だが、いずれ孝太郎どのも側室を持つことになろう。幾ら孝太郎どのが拒もうと、それは尾張家の当主に課せられた宿命ともいうものだ。一人でも多くの子をなすことが当主の使命だからな。たとえ孝太郎どの当人がそう望まずとも、そうせざるを得ぬようになってゆく。それは何も孝太郎どのが悪いわけではない。何故なら、藩主、それも御三家筆頭ほどの家ともなれば、当然のことだからだ」
「一体、何が仰せになられたいのでございますか?」
美空が俊昭を睨みつけると、俊昭は鷹揚に頷いた。
「どうせ孝太郎どのも他の女とよろしくやるのだ。正直申して、ここに来るまでは評判だけの見かけ倒しの女、尾張藩主のご簾中の座欲しさに女には疎い孝太郎どのをまんまと丸め込んだ女だろうと考えていた。だが、なかなかどうして、良い女ではないか。私はそなたをひとめ見たときから気に入った」
何て勝手な理屈だろう。これも〝男の理屈〟というものなのだろうか。
こんな男がいるから、世の中には男に良いように騙されて泣く女が後を絶たないのだ。
しかし、相手は孝俊の従弟である。その怒りをまさかそのまま相手にぶつけるわけにはゆかない。
美空は憤りを抑え、低い声で言った。
「私は孝俊さまの妻であり、世継徳千代君の母でもあります」
妻であることだけでなく、母親であると言えば、相手も気圧されると思ったのだが。
生憎と、相手は美空よりも狡猾、こういった恋の駆け引きについては百戦錬磨らしい。
美空の言葉もさらりと受け流し、平然と言った。
「それがどうした? 母親だって女だぞ? 孝太郎どのが側室を置く日は、恐らくそう遠くはないだろう。そうなったときのことを考えてみたことがあるか? 独り寝の夜が淋しくてたまらぬはずだ。私がその孤独を慰めてやろうと言っているんだ。なに、そう難しく考える必要はない。ちょっとした気分転換と思えば良い。その相手が私だというのはそう悪い話ではないと思うが?」
「その気分転換とやらをなさりたいのであれば、どうぞ、他の女の方の許へお行きなさいませ。生憎と私は間に合っております」
