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電話ボックス

第4章 四

帰宅し、熱い湯に浸かっていると今まで感じた不安感がばかばかしく感じられる。

何もない場所に怯えるなんて。

それもただの電話ボックスに。

確かに一度女の姿を見た気がした。

それだって錯覚だろうし、たまたま誰かの姿がガラスに映ったのかもしれない。

笑い話。

ネタくらいにはなるかもしれないと思いつつ、僕は湯から上がる。

よほど冷えたのか、いまだに背筋がゾクゾクする。

今日は早めに休むことにしよう。

風呂から出、髪を乾かす。

と、背後に人の気配を感じた。

僕は一人暮らしだ。

ここには誰もいない。

鏡を見る。

何も映っていない。

ただ壁があるだけ。

携帯が鳴った。

出る。

無言。

何の音もしない。

悪戯か。

電話を切る。

表示を見た。

知らない番号。

再び携帯が鳴る。

さっきと同じ番号が表示されている。

僕は文句の一つでも言ってやろうと思って電話に出た。

今度は声が聞こえた。

でもそれは…。

電話を切る。

体が震える。

寒い。

今のは幻聴だ。

そう、そうに決まっている。

部屋の中を見渡す。

ワンルームのマンション。

隠れる場所なんてない。
僕は立ち上がり布団の中に潜りこんだ。

怖い。

恐怖に全身の毛が逆立つ。

気のせいだ。

でも…。

電話は鳴った。

声も聞こえた。

確かに聞こえたのだ。

僕の後ろで。

耳に囁くように。

携帯から届く声ではなく、直接耳に響いた声。

『捕まえた』の一言。

これは妄想なのだろうか。

僕は雨に濡れ、熱を出しそれで夢を見ているのか。

わからない。

頭が痛い。

僕はどうしてしまったのだろう。

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