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第5章 もう一つの指

モデルとして通い、彼に愛され、僕はどんどん堕ちていく。

身体も心も。

堕ちて溺れて、壊れそう。

いっそ、壊れてしまえばいいのに。

それができれば楽なのに。

いつかは彼の心も離れていくだろう。

それを考えると不安でたまらなくなる。

そんな僕に彼が言った。

「地下においで」

言われるままに僕は従う。

このビルに地下室があったことをはじめて知った。

彼は鍵を開け、中に僕を招き入れる。

中は広い。

壁全体を覆うように暗幕がかかっている。

中に何かあるようだ。

彼は何も言わず歩むと暗幕に手をかけ、横に引く。

中には備え付けの棚。

そして空のガラスケース。

彼は何を僕に見せたいのか。

不思議に思い彼を見るが、言葉はない。

「あの…」

僕が聞こうとするのを彼は手で制した。

温かな彼の指先が僕の唇に触れる。

僕はそのまま彼が口を開くのを待つ。

こんなことでも僕は幸せを感じている。

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