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第5章 もう一つの指

どれくらいそうしていたのか。

彼の指が僕から離れる。

そして彼は僕の方を向くと微笑みながら聞いた。

「僕のために君の指をくれないか」と。

一瞬何を言われたか解らなかった。

指?

指とはこの指のことだろうか。

くれないかとは…。

どういう意味?

彼はそれ以上言わず、隣の幕を引く。

そこにも棚、そしてガラスケース。

違うのは中身が入っていること。

そう、そこにはちゃんと入っていたのだ。

『指』が。

正確には手首から先が。

綺麗に切断された人間の手首がガラスケースに入っていた。

青白いそれは干からびも腐りもせずにそこにある。

まるで宝物のように。

僕は悲鳴を上げることもせず、ただそれを見ていた。

怖いとは思わない。

ただ綺麗だと思った。

これは彼に愛された人達のもの。

彼に愛され、求められた人達の愛の証。

そう、ここにあるものは特別。

選ばれた者たちの特権。

僕は微かな嫉妬を覚えながらも選ばれたことに喜びを感じていた。

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