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第1章 一

男は僕の顔を見つめる。

 そして頷いた。

「まずは自己紹介をしておきます。僕は橘、橘進」

男はそう名乗り、名刺をテーブルの上に置く。

僕はそれを手に取り、眺める。

そこには名前と職業が書かれていた。

他には何もない。

連絡先も。

「カメラマンなんですか?」

男…橘さんは頷き、雑誌を僕の前に置いた。

「僕は普通のカメラマンではないんだ。付箋の貼ってあるページを見てもらえるかな?」

僕は言われるままにページを開く。

そこに写っていたのは『手』だった。

手といってもそこだけが写っているわけではない。

身体や顔も写っている。

が、主役はやはり『手』だ。

「きみに頼みたいのはモデルの仕事だよ」

…モデル!?

この僕が?

あ…だから、彼は店でああ言ったのか。

「引き受けてもらえるかな」

僕は頷く。

好奇心には勝てない。

手のモデルならいいかと、その時は思った。

軽い気持ち。

 でも…僕が、彼に惹かれていたのだと気づくのは、撮影がはじまり彼と過ごす時間が長くなってからだった。

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