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第1章 一

「ここが僕の家だよ」
そう言って鉄の扉を開く。

中は外観からは想像できないほど、綺麗だ。

広い空間。

壁をぶち抜いてあるのだろう。

  壁はコンクリートの打ちっぱなしだが、それがこの部屋の雰囲気によく合っている。

僕は部屋を見渡す。

窓際に置かれたダブルベッド。

小さな丸テーブルにはスタンドが置かれている以外何もない。

他にある物は、冷蔵庫にテレビ、机、ソファー…生活に必要な物は全て揃っている。

「満足したかな」

男の言葉にハッと気づく。

ここは見知らぬ男の部屋なのだと。

「満足したのなら、仕事の話をはじめましょうか」

男はソファーに僕を座らせると、お茶を入れて来ると言って出て行った。

どうやらキッチンは別にあるようだ。

誰も住んでいなさそうなビル。

居るのは彼だけかも知れない。

僕は改めて部屋の中を見渡す。

 もう少しここが荒れていて、ベッドも簡易的なものであれば、映画に出てくるハードボイルド探偵の部屋のようになるかもしれない。

鉄の扉が開き、男が入って来た。

手にはトレイを持っている。

「お待たせ」

 男はそう言ってカップをテーブルに置く。

「紅茶好きですよね」

「…」

何故、それを知っている?

もしかしてストーカーか?

内心の焦りを察したのか、男は笑いながら言う。

「あの店は紅茶の専門店だからね」

言われてみれば。

とはいえ、紅茶好きということにはならないだろう。

「僕もあの店は好きで、時々行くんだ。そして何度か君を見かけた」

それでかと、思わず納得する。

「話をはじめてもいいかな?」

僕をじっと見つめる。

僕は頷いた。

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