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RAIN

第6章 拒絶《拓海side》

彼から提供する話題に俺が付き合う形で成り立つ会話。

「そういえば北条さん、お風呂とかいいんですか?」
急に思い出したように振る神崎くんに、俺は無言で反応する。
「北条さんも雨に濡れちゃったから、そのままでいたら風邪引いちゃいますよ」
心底心配した神崎くんの瞳とぶつかる。
「もしかして俺に気を使って入らないのかと思って……。あの、俺のこと気にしないで入ってください」
安心させようとしてるのか、にこりと笑顔で返す神崎くんに、俺は暫しの間、躊躇してしまう。彼が帰ってから入るつもりでいたからだ。
「ほんとに入ってください。その間、迷惑でなければテレビでも見て待ってますから」
彼もまた譲らない。俺は諦め、重い腰をあげた。
「……すまない。それじゃ入ってくるよ。その間に洗濯も終わるだろうし……。テレビ、勝手に見てて構わないから」
そう言って彼にテレビのリモコンを渡す。次に台所に移動し、食器棚から滅多に使わない客人用の茶碗を出すと、スーパーで購入した安い茶葉を出し、急須に適量をいれる。それで注いだ緑茶を神崎くんへと置いてやる。

コーヒーがまだ残っているのに、どうして自分の前に緑茶が新しく追加されているのか、素直に俺の顔とお茶を交互に見つめる彼に、俺は理由を述べた。
「コーヒー……苦手だろ?」
短く言っただけで彼は更に大きく瞳を開いた。
「え、なんで分かったんですか?」
本気でばれたことに頭を悩ませる神崎くんに、くすりと柔らかく笑んでやる。
「なんとなくね」
その時の感情を素直に表す彼が微笑ましい。

未だにパニクっている彼を置いて、俺は風呂場へと足を進ませた。



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