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RAIN

第6章 拒絶《拓海side》

そんな子供っぽい彼の仕草に、彼にばれない程度の苦笑を浮かべる。
彼に悪いことをしてしまったな、という反省。
けれどきっともう彼に二度とコーヒーを淹れることはないだろう。コーヒーだけではない。その他諸々、彼に何かしてやることはない。

改めて俺の中でせめぎ合う相反する感情。



「もしかして…………」
物思いに耽っていた俺の耳に、神崎くんの小声が入ってくる。
え、と顔を神崎くんへと向ければ、神崎くんの戸惑った表情とぶつかる。
「一人暮らしなんですか?」
興味深く部屋を注視していた神崎くんの、ストレートな質問。
「……まあね……」
簡潔に答えれば、神崎くんの瞳が好奇心に満ち溢れたものに変化したような気がする。
「俺も高校卒業したら一人暮らししようと思ってるんですよね!」
神崎くんが思い描いている未来設計に、俺は客観的に見守るだけだ。

この年頃は一度ぐらいは一人暮らしとかに憧れる傾向にあるようだ。家族による束縛から解放され、自由を得ることへの羨望。

「えっともし嫌でなかったら、歳いくつか聞いていいですか?」
向かい合ってから神崎くんの質問攻めは終わる気配がない。純粋に好奇心からくる彼の一方的な質疑。
「……二十一だよ。そういう君は?」
「俺は十六です。あと少しで十七になりますけどね」
「……それじゃ高校二年生?」
「はい。……でも顔が幼いから高二に見えないって一部に言われちゃうんですけどね。それに背も低いから余計で……」
よく喋るな、と内心思いながらも、けれどそれがうるさいとか迷惑だとは感じない。
それどころかあどけなく答える彼につられて、俺も薄く笑ってしまう。

瞳を輝かせている神崎くんをちらりとばれない程度に見やる。
何が楽しいのか、彼はずっと笑んだままだ。退屈しないようにと彼なりに配慮しているようで、会話が途切れることはなかった。



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