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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 よもや、盗賊の仕業に見せかけた遺族の惨殺が右議政を陥れた者たちの陰謀の一端であったと疑う者はいなかった。事件はそれほど巧妙に仕組まれたのだ。
 潤俊を陥れた一味の首謀者は梁君子。忘れたくても忘れられない憎い仇だ。幼心にその名前を何度心に刻み、復讐を誓ったことか。
 が、その度に、兄とも慕う男に諫められている中に、思いとどまったのだ。
―英真、そなたの気持ちは判らぬわけではない。されど、今や領議政は政丞(チヨンスン)の中でも最も権力を持ち、最早、昔日のそなたの父上ですら凌駕するほどの国王殿下の信頼を得ている。今更、子ども一人で立ち向かっても、逆にひと捻りされるのが関の山だ。これからは恨みに生きるより、前を見て自分の人生をより良く生きることだけを考えろ。
 皇秀龍(ファンスロン)は、兄明賢の親友である。秀龍の父は礼(イエ)曹(ジヨ)判(パン)書(ソ)を務め、皇家と申家は家族ぐるみで付き合っており、あたかも親戚のように親しく気心が知れていた。元々、秀龍と兄が仲好くなったのも父親同士が碁仲間であったことがきっかけだった。
 だが、皇家はあっさりと申家を見限った。秀龍の父皇才偉(ジェウエ)は無実の罪を着せられた潤俊に救いの手を差しのべようとすらしなかったし、すべてを失った英真には見向きもしなかった。
 あの一件は、幼い英真の価値観を根底から揺さぶり、変えた。日頃は血の繋がった両親よりも英真に対して慈悲深く優しかったかに見えた皇家の人々は罪人の一家と関わり合うことを怖れ、まるで見知らぬ人のように申家を無視した。今なら思う。あの時、皇才偉はああするしかなかったのだと。
 両班は何より家門の体面と名誉を重んずる。皇氏は太祖(テージヨ)大王建国以来の名門ではあるが、下手に情けを掛けたばかりに国王に対する謀反を企てた罪人と繋がっていると思われては、その輝かしい家門に傷が付く。下手をすれば、才偉までもがその一味だと疑われてしまうかもしれない。

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