麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】
第5章 天上の苑(その)
思い返せば、思い当たる兆候は幾つもあった。馬に乗る前にも、準基はふらついて倒れそうになった。
ああ、あのときに自分が気づいてあげていれば。熱がある身体で準基は浄蓮を翠月楼まで送り届け、女将とのあの丁々発止のやりとりをした。
あんなことをせず、もっと早くに屋敷に帰り、温かくして養生していれば、最悪の事態は避けられたかもしれないのに。
いや、彼が風邪を引いたのも元々は、浄蓮を気遣って篠突く雨の中を薪拾いに行ったからだ。あれが、生命取りになったとすれば、準基は自分が殺したようなものだ。
自分は最後まで彼を利用し、騙し続けた。
準基は浄蓮を女だと信じ切っていた。浄蓮は準基の純粋な愛情を卑怯にも利用した。最後まで真実を告げず、彼は浄蓮を信じたまま遠くへ、二度と逢えない遠い場所へと旅立ってしまった。
―私なら、待つよ。浄蓮が私の許に来てくれるまで、ずっとずっと待ってる。浄蓮がどうしても妓生になりたいという夢を諦められないのなら、私は、それでも良いと思っている。
―私なら大丈夫。これでも、健康だけが取り柄なんだ。尊敬する兄上のように頭は良くないけどね。
あの洞窟で過ごした夢のような時間、準基と交わした科白の数々が今更ながらに耳奥でこだまする。
「あ―」
浄蓮は厭々をするように、かぶりを振った。
想い出が押し寄せ、息ができなくなりそうだ。彼と過ごしたわずかな時間の一瞬一瞬が物凄い勢いで甦ってゆく。
ジスンが痛々しそうに自分を見ているのも、全く眼に入らない。
「大丈夫ですか? 誰か人を呼んだ方が良いかな」
ジスンの声は、まるではるか遠くからの声のように聞こえた。
ああ、あのときに自分が気づいてあげていれば。熱がある身体で準基は浄蓮を翠月楼まで送り届け、女将とのあの丁々発止のやりとりをした。
あんなことをせず、もっと早くに屋敷に帰り、温かくして養生していれば、最悪の事態は避けられたかもしれないのに。
いや、彼が風邪を引いたのも元々は、浄蓮を気遣って篠突く雨の中を薪拾いに行ったからだ。あれが、生命取りになったとすれば、準基は自分が殺したようなものだ。
自分は最後まで彼を利用し、騙し続けた。
準基は浄蓮を女だと信じ切っていた。浄蓮は準基の純粋な愛情を卑怯にも利用した。最後まで真実を告げず、彼は浄蓮を信じたまま遠くへ、二度と逢えない遠い場所へと旅立ってしまった。
―私なら、待つよ。浄蓮が私の許に来てくれるまで、ずっとずっと待ってる。浄蓮がどうしても妓生になりたいという夢を諦められないのなら、私は、それでも良いと思っている。
―私なら大丈夫。これでも、健康だけが取り柄なんだ。尊敬する兄上のように頭は良くないけどね。
あの洞窟で過ごした夢のような時間、準基と交わした科白の数々が今更ながらに耳奥でこだまする。
「あ―」
浄蓮は厭々をするように、かぶりを振った。
想い出が押し寄せ、息ができなくなりそうだ。彼と過ごしたわずかな時間の一瞬一瞬が物凄い勢いで甦ってゆく。
ジスンが痛々しそうに自分を見ているのも、全く眼に入らない。
「大丈夫ですか? 誰か人を呼んだ方が良いかな」
ジスンの声は、まるではるか遠くからの声のように聞こえた。