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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第6章 終焉

  終焉 

 風が、吹く。
 わずかに乱れた髪を巻き上げ、通り過ぎてゆく。
 真夏にしては涼しすぎる風が浄蓮を長い物想いから解き放ったようだった。
 浄蓮は髪を嬲る風に眼を細め、一面を埋め尽くす蓮花を見つめる。
 巨きな池の面を飾る無数の蓮は、準基と共に眺めてからひと月以上経った今も、こうしてあの日と変わらず咲き誇っている。
 あなたを失って、どうやって俺に生きてゆけというんだ?
 準基が生きていると思うからこそ、頑張れた。あの男が同じ空の下にいると信じているから、同じその空の下で生きられると思った。
 美しい朝焼けも胸がふるえるような茜色の夕焼けも、今、見上げている空があの人の見ている空へと続いていると思えば、幾ばくかでも心が慰められたのだ。
 けれど、もう、そんなものには何の価値も意味もない。
 あの人のいないこの世に、何の未練があるだろう。
 俺も今、逝くよ。
 告げられなかった真実をせめてあの世で告げたい。現世では添い遂げられなかったけれど、来世では女として生まれ変わり、今度はあの男と晴れて結ばれたい。誰にも後ろ指を指されず、ちゃんとした男と女として。
 浄蓮は絹の靴をきちんと揃えて池の畔に脱いだ。
 明日はいよいよ見習いとしての披露目の日。その晴れの日を明日に控え、浄蓮は旅立つ。
 お義母さん、先立つ不孝をお許しください。とうとう、浄蓮は女将さんのご期待に最後まで添えませんでした。
 まだ女将を直接に〝お義母さん〟と読んだことはないが、せめて最後に一度だけ、そっと呼んでみた。

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