テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第6章 終焉

―そのとおりだよ。そなたが兄上の志を常に忘れず、立派だった兄上に恥じない生き方をすれば、兄上はそなたの中で生きられなかった人生を、叶えられなかった夢を実現できる、私はそのように考えるが。
 ひと月前、今、自分が立っているこの同じ場所で交わしたやり取りがつい昨日のことのように思い出される。
 兄の代わりに自分が死ねば良いと言った浄蓮に、準基が真摯な面持ちで諭した場面だ。
 あの男が言いたかったことは、これだったのか?
 刹那、浄蓮はハッと眼を見開き、自分が池の淵に立っていることに気づいた。
 俺は、今、ここで何をしようとしていた―?
 俄に怖ろしくなり、浄蓮はまろぶように池のほとりに戻ると、気が抜けたようにその場にくずおれた。
 改めて我が身の纏った純白のチマチョゴリを見る。不吉な、禍々しいまでの白さだ。
 まるで弔いのような。
 俺は一体、ここで何をしでかすつもりだったんだろう。
 茫然と座り込む浄蓮の傍をひっきりなしに、風が通りすぎてゆく。 
 八年前、兄が亡くなった時、浄蓮は兄の生命を引き継いだ。ならば、今度は、準基の生命、想いを引き継いだことになるのだろうか。
―私はそなたが泣くと、どうしたら良いか判らなくなる。だから、泣くのは止めて。
 その瞬間、浄蓮は確かに風の音の中に愛する男の声を聞いたような気がした。
―泣くのを止めて、自分の周囲をゆっくりと見てご覧。
 浄連は記憶の中の準基の声に従い、ゆっくりと視線を巡らせる。
 あの日と変わらずに蓮の花たちは清らかな姿でここにあった。準基と並んで眺めたのと全く同じ光景が、今、眼の前にひろがっている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ