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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 この実に不名誉かつ不本意な噂に関しては、当人も気にしている。準基とのことを色々と詮索して心配し始めた秀龍を牽制するために、気にしている痛いところをわざとついてやったのだ。
 案の定、沈着だといわれている割に、実は短気な義兄は本気で怒り出した。
「実に失礼な奴だ!」
 いつしか準基のことなど忘れている秀龍を見ながら、浄蓮は内心、苦笑する。
 いかにも兄貴らしい。一本気で、普段は冷静すぎるほどなのに、実は内面に炎のような情熱を秘めている。
 もしかしたら、準基は兄貴に似ているかもしれない。準基も秀龍と同じだ。
 一見、醒めているように見えるのに、思い込んだら、まっしぐら、意外に熱っぽい一面があるのだろう。
 だから、一度逢っただけの俺に、話があるからだなんて、強引に連れ去ろうとしたんだ―。
 浄蓮は無意識の中に、準基に掴まれた手首の上に自らの手を重ねていた。
 そっと触れれば、そこにまだ、あの人の温もりが残っているような気がして。
 初めて出逢った日から、まだ一日も経っていないのに、随分と刻が流れたように思えてならない。
 大勢の若者たちの中で、何故か、彼だけが違っていた。中身のない、空っぽな腑抜けた両班の子息たちとは、どこか違う雰囲気に強く惹かれた。
 それにしても、あの男の眼の尋常でない昏さが気になる。何かに突き動かされているようなとでもいえば良いのか、切迫したような雰囲気は、何も意中の女に告白しに来たからだけではない。
 そういえば、昨日、初めて見た印象的な出逢いのときも、やはり、準基の眼は底なしの沼のように昏かった。
「浄蓮、何を考えている?」
 秀龍の気遣わしげな声が耳を打ち、浄蓮は物想いから引き戻された。

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