麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】
第4章 異端者
「貴様! このようなことをして、ただで済むと思うなよ」
ファンジョンが元々、醜悪な顔を更に醜く歪め、怒鳴り散らす。濡れた髪から酒の雫が滴り落ち、酒臭い匂いが鼻についた。
そのときだった。
明月が進み出たかと思うと、浄蓮の頬が乾いた音を立てた。続いてもう一度。
浄蓮は明月に打たれた両頬を押さえ、愕然と年上の妓生を見た。
「お前のしたことが許されるとでも思っているのか? お前は一体、自分を何様だと思ってるの? 王さまや両班の姫君でもあるまいに、妓房にいる女が誰に操を立てるっていうんだい? そんなに大事な男がいるなら、最初から妓房なんて来なければ良いし、金のために身を売ったのなら、それだけの覚悟を示しな。大切な若さまに手を上げるなんて、このろくでなし!」
明月が更に手を振り上げようとした時、ファンジョンの醒めた声が止めた。
「もう、良い。明月、興醒めだ。こんな気の強い女は、こちらから願い下げだ」
ファンジョンは言い捨てると、もう浄蓮などそこにいないかのように去っていった。
明月が慌てて〝若さま、お待ち下さいませ〟と、後を追いかけて出てゆく。
誰もいなくなった部屋で、浄蓮はくずおれるようにその場にへたり込んだ。
身体中の力が一挙に抜けて、気の抜けた鞠になってしまったようだ。怖くもないはずなのに、身体が震えた。
浄蓮を打ち据えたときの明月の瞳には、何の感情も浮かんではいなかった。哀しみも憎しみさえも。
ファンジョンが浄蓮を犯そうとしていたときには、確かに明月の双眸には憎悪が燃えていたはずなのに―。
ひと欠片の感情も宿さぬ瞳、あれは確かに妓生のものだ。歓びも哀しみも超越し、己れの心を虚無で満たした女の眼。
ファンジョンが元々、醜悪な顔を更に醜く歪め、怒鳴り散らす。濡れた髪から酒の雫が滴り落ち、酒臭い匂いが鼻についた。
そのときだった。
明月が進み出たかと思うと、浄蓮の頬が乾いた音を立てた。続いてもう一度。
浄蓮は明月に打たれた両頬を押さえ、愕然と年上の妓生を見た。
「お前のしたことが許されるとでも思っているのか? お前は一体、自分を何様だと思ってるの? 王さまや両班の姫君でもあるまいに、妓房にいる女が誰に操を立てるっていうんだい? そんなに大事な男がいるなら、最初から妓房なんて来なければ良いし、金のために身を売ったのなら、それだけの覚悟を示しな。大切な若さまに手を上げるなんて、このろくでなし!」
明月が更に手を振り上げようとした時、ファンジョンの醒めた声が止めた。
「もう、良い。明月、興醒めだ。こんな気の強い女は、こちらから願い下げだ」
ファンジョンは言い捨てると、もう浄蓮などそこにいないかのように去っていった。
明月が慌てて〝若さま、お待ち下さいませ〟と、後を追いかけて出てゆく。
誰もいなくなった部屋で、浄蓮はくずおれるようにその場にへたり込んだ。
身体中の力が一挙に抜けて、気の抜けた鞠になってしまったようだ。怖くもないはずなのに、身体が震えた。
浄蓮を打ち据えたときの明月の瞳には、何の感情も浮かんではいなかった。哀しみも憎しみさえも。
ファンジョンが浄蓮を犯そうとしていたときには、確かに明月の双眸には憎悪が燃えていたはずなのに―。
ひと欠片の感情も宿さぬ瞳、あれは確かに妓生のものだ。歓びも哀しみも超越し、己れの心を虚無で満たした女の眼。