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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第4章 異端者

 あの瞳を見た時、浄蓮は悟った。
 妓生とは、あらゆる感情を越えた存在なのだと。生きる歓び、愛する哀しみ、憎む醜さ、すべてを呑み込み、なお毅然と己を保ち、客の男に婉然と微笑みかける美しき花。
 花は美しくなければならない、どのような感情を秘めていても、表に出してはいけない。ただ、一夜を共にする男のためだけに咲き、その夜限りの大輪の花を咲かせるのだ。
 それは美しいけれど、匂いもない、偽りの花。客の方も偽りだと判って手折る。
 妓生は、一夜毎に、花を咲かせ、朝には散らせる。そうやって、一日、一日、自分の身体を、生命を削って、日々を紡ぎ生きてゆくのだ。妓生が生きるということは、生命を削ることに等しい。
 だからこそ、妓生は〝解(ヘ)語(オ)花(ファ)〟と呼ばれる。解語花とは、言葉を理解する花という意である。
 流石は翠月楼一の妓生、売れっ妓だけはある。見事な立ち回りだった。
 あの瞬間、浄蓮はまさに、真の妓生の姿を姉女郎の瞳にかいま見たのだ。
 浄蓮は自分の頬が濡れているのに気づいた。いつのまにか、泣いていたのだ。
 半月前といい、今日といい、どうして、自分はこんなにもよく泣くようになってしまったのだろう。女の格好ばかりしているから、泣き虫になってしまったのだろうか。
 何故か、あの男、任準基に無性に逢いたかった。あの淋しげだけれど、優しい光を宿す瞳に見つめられたかった。
 あの男の深い声を耳にして、〝泣くな〟と言って欲しかった。
 判っている。準基がこの見世に来ることはない。他ならぬ自分が準基を追い返したのだから。
 大切な話があると真摯に告げた彼に、秀龍との口づけをわざと見せつけ、〝二度と来ないで〟と告げたのは、この馬鹿な自分―。
 秀龍と準基が恋のさや当てを演じたのは、もうかれこれ半月余りも前のことになる。あれからというもの、準基は当然ながら、一度として翠月楼には登楼していない。

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