テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第4章 異端者

 翌朝になった。
 翠月楼の二階の一室で、浄蓮は唇を噛みしめ、うつむいている。
「一体全体、お前はいつから忍(おし)になっちまったんだい? お前は自分がどれほどのことをしでかしたか、ちっとも判っちゃいないようだ」
 浄蓮は弾かれたように顔を上げた。
「―梁家の若さまは、私を手籠めにしようとしたんです。明月さんは、そんな私を助けてくれるどころか、逆に若さまに加勢して、私を押さえつけたんです。女将さん、私のしたことが、どうしてそんなにいけないことなんでょうか?」
「幾らお前でも、領議政さまのご威光がどんなものかは知っているだろうね? 梁家の若さまは、うちの見世の大得意さまだったんだ。お前の馬鹿げたふるまいのせいで、あの若さまはもう二度と翠月楼には来ないだろうよ」
「女将さん、私は妓生ではありません。ただの下働きの娘を、あの若さまは慰み者にしようとしたんです」
 堪りかねて言うと、女将がフフンと嗤った。
「おや、妙なことを言うね。お前は何が何でも妓生になりたかったんじゃないのかい?」
 その思わぬ攻撃に、浄蓮は言葉を失った。
 女将がしたり顔で笑う。
「所詮、お前の覚悟なんて、その程度のものなんだね」
 浄蓮はきつく唇を噛む。あまりに強く噛んだので、口の中に血の味がひろがった。
「それでは、私はどうすれば良かったと言うんですか? あの時、私はぎりぎりまで我慢していました。何とかならないか、梁家の若さまが思いとどまってくれないかと祈るような気持ちでいたんです。でも、結局、上着も脱がされてしまって、あと少しのところで、私は秘密を知られるところでした。あそこで抵抗していなければ、私は皆の物笑いになって、ここを追い出されていたし、女将さんだって、今よりもっと困ったことになったでしょう」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ