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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第4章 異端者

 どうも、今までの姐さんとは違う人のようだ。
 浄蓮がそんなことを考えていた時、何かやわらかなものが自分の頬に押し当てられた。
「―ごめんね。痛むでしょ。言い訳させて貰えば、あたしもあのときは必死だったのよ。あんたがあの若さまを嫌ってるのは知ってたから、意地悪心で若さまに抱かれちゃえば良いなんて思ったんだけど。でも、流石に怒りまくった若さまがあんたを殺したり、屋敷に連れ帰ったりしたら、これはまずいと思ったのよ。あの若さまって、信じられないくらい執念深くて陰険なの。屋敷に連れて帰られたら、閉じ込められて頭がおかしくなるくらい酷い抱き方をされるのは判ってたからね。若さまを止めるには、ああするしかなかった」
 明月の温かな手が浄蓮の頬を撫でていた。
「妓生にとって、顔は大切な財産の一つだってのに、こんなに跡が残るくらい叩いたりして、本当にごめん。悪かった」
「―そんな、謝らないで下さい。姐さん、悪いのは私の方なんですから」
 そう言う浄蓮の眼から涙が溢れ、ポトリと床に落ちた。
「あれま、あんた、泣いてるの?」
 明月が夏に降る雪を見たように、眼をまたたかせた。
「あたしは、あんたが泣いてるのを初めて見たわ。ふうん、そっか。浄蓮もやっぱり泣くのねえ」
 のんびりと言い、浄蓮の頭をゆっくりと撫でた。その優しい手の感触は、あの両親や兄が惨殺された悪夢の夜、浄蓮を救い出し、十二歳まで育ててくれた優しい乳母の手を思い起こさせた。
 賊を装った科人たちが母や兄、すべての使用人たちを惨殺している間、幼い彼は古びた物置の片隅で乳母に抱きしめられて怯え震えているしかなかった。
 事件後、しばらくは怖い夢を見て、しばしば、うなされた浄蓮の頭を傍らに眠る乳母が優しく撫でてくれ、浄蓮はまた安心して眠りへと落ちていったのだ。

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