テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第4章 異端者

喩えようのない気まずさが漂った後、女将が浄蓮の方は見もせずに言った。
「だが、これだけは言っておくよ。たとえ、ここを出て、どんな姿になって生きようと、お前の度を過ぎた勝ち気さがいつかお前自身を窮地に追い込み、下手をすれば、滅ぼすよ。ここで一年ばかり一緒に過ごしたのも何かの縁だ。それだけは忠告しておこう」
 女将が出ていったのか、扉が閉まる音が聞こえた。
「―馬鹿な子」
 ふいに頭上から声が降ってきた。
「あそこまでお義母さんを怒らせるなんて、あたしでも怖くて到底できないのに。ねえ、浄蓮、お義母さんは、あんな風にあんたの前では悪し様に言ったけれど、内心では、あんたを買ってるのよ。あたしが今まであんたに大人げなく意地悪してきたのも、実はといえば、お義母さんがあんたを凄く可愛がってるのが判ってたから」
「女将さんが私を可愛がる?」
 浄蓮が顔を上げると、明月がニッと笑った。いつもの妖艶な笑みとは違い、何だか十九歳という歳相応の邪気のない笑顔のような気がした。
「そうよ。考えてもごらん。お義母さんは、あんたをまだ見世にも出さない前から、舞、詩歌、伽倻琴と全部手取脚取り、教え込んでるじゃない? あたしだって、全部、教えて貰ったわけじゃないのよ。どこか他所からお師匠さんが来て、その人に稽古を付けて貰ったの。お義母さんは現役時代は伽倻琴と舞の名手だったって聞いてたから、教えて貰いたかったんだけどね。つまり、それだけ、お義母さんは、あんたの才能を見込んでるってわけ。良い? そこのところを忘れないでよ」
 マ、あたしはあんたが妬ましかったのね。このままだと、あたしのお株を奪われて、お前がこの見世の次の女将になっちまうんじゃいかって思ったわけ。
 明月はまるで他人事のように言うと、呵々と笑った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ