パパはかわら版
第6章 パパはかわら版E
翌日、橋龍が平凡屋にいくと、勘定方のことが話題になっていた。どうやら、謹慎中だった、勘定吟味役の佐野忠介が、解任されたようだった。勘定吟味役というのは、勘定奉行所の行政の監視・監査をするところで、4名、旗本から選ばれる役職だった。上役である老中に、勘定方の体質について、問題視した発言をしたわけだから、何らかの処分が下されるのは当然だったが、解任というのは、考えようによっては、軽い処分だったかもしれない。もちろん、彼の将来、家系の安泰を考えれば、何一ついいことはなかっただろうが、酒井大老次第では、切腹というのもあるだろうから、解任で問題が収まったのは、周りがなんとか、うまく丸めようとした結果だったかもしれない。酒井大老は、不思議な人物で、政敵でない旗本に対して、理解を示したような形で、自らの懐の深さを示しているようにも見える。そのくせ、老中、若年寄などに対しては、ほとんどがイエスマンをそろえて、御三家ご所望の人事に関しては、ごく僅かに聞き入れるが、酷い厄介者扱いをするという具合だった。そもそも、御三家が出てこなくてはいけないほど、幕政は骨抜きにされていたのだ。ただ、彼の本当の支援者というか、立場を支えていたのは、彼と関係の深い商人たちだったかもしれない。この時代は、株仲間が公認された時代だったから、商人と幕府役人とは、切っても切れない関係だった。