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天海有紀編

第1章 1

ただ、有紀は本当に社長なのだ。いや、それ以上かもしれない。仕事の交渉からビルの管理まで、全部自分でやっていた。オフィス天海の社員は、2人しかいなかったが、その一人が坂下チリ子だった。彼女は最近、この事務所にマネージャーとして入ってきたばかりだった。ただ、雇ったのはいいが、有紀はどうも役に立ちそうにないと思っていた。チリ子の話だと、マネージャーを前の会社でもやっていたというのだ。それも、この業界ではもっとも大きな会社だった。話を聞いたら、自分の知っている人のことも知っていたので、それで、信用してしまった。ただ、どう見ても仕事っぷりがマネージャーといえるものではなかった。それでも、有紀がまだ雇っているのは、前のマネージャーに厳しくしすぎて、辞めてしまったせいもあった。事務所を持ったばかりで、少し張り切ってしまったと自分でも反省していた。今度は、耐えられるところまで耐えようと思って入ってきたのがチリ子だった。それにしても、酷いのだ。できるのは電話の受け答えぐらいだった。それでもなぜかそれがやたらとうまかった。もしかしたら、この子は、電話番だったんじゃないのと有紀も何度か思った。それと、もう一人が、木下さんだった。普通のおじさんだ。帰りに立ち飲み屋でいっぱいやるのが、楽しいと言っているような人だった。結婚はしたが、離婚して子供も向こうにいったから、会っていないと言っていた。木下さんは、それこそ雑用というか、有紀が時間的にできないことは、何でもやっていた。と言うより有紀にやらされていた。ある程度のことは無難にこなすタイプで、そういった意味では有紀は、信頼はしていた。それでも、金の出し入れから、女優業まで有紀はやるのだから、本当に凄い社長だ。女優業というのは、定期的なものではない。いついい仕事と巡り会えるのかなんて分からないし、仕事と言えば、撮影や番宣なんかを含めたテレビ出演などだ。そういったこともあって、チリ子の仕事も難しいところはあって、有紀がドラマや映画などで仕事があるときは、マネージャーをしていたが、それ以外の時は、オフィスで電話番というような感じだった。

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