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天海有紀編

第1章 1

「今日はまだ電話かかってこないね」
「ええ、あ、はい。こんな時何やったらいいのか、まだ私入ってきたばかりだから分からないんですよね」
「いっぱいあるよ、仕事は。やるんだったら、私のも分けてあげるよ」
「でも、社長にいわれないと、できません。この間も私のことでたらめだって」
「本当に。でも、そんなこと気にしちゃ駄目だよ。口は悪くてもね、優しい人なんだから」
「分かってます」
「なんで、この事務所には来たの」
「え、私ですか。最近は不景気だからしょうがないですよ。どこでも雇ってくれるところがあったらって思ったんです」
「そしたら、たまたまか」
「はい。前の会社では、やってたのは電話番なんです」
「道理で、見たことないぐらいの受け答えだね」
「そればっかりやっていたから。でも、それでも嘘じゃないんですよ」
「何が」
「大手のプロダクションで働いていたというのは」
「へえ、そう」
「それに、マネージャーもやっていたんです」
「電話番とマネージャー」
「そんなんじゃありませんよ。電話番が嫌になったんで、現場に出たいっていったんです。それで、現場に出たんです」
「それでどうだったの」
「もう全然駄目。私にはあってなくて。でも、もう電話番に戻りたいとも言えなくて、会社やめたんです」
「そうだったのか」
「それも、マネージャーをやっていたのは、1ヶ月だけでした」
「たった、それだけ」

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