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澪―みお―

第3章 葛原 幸次

父親の表情は、みるみるうちに昔のソレへと姿を変えた。

…やってしまった。
失敗した。

一気に頭の中が真っ白になる。
とにかく、とんでもないことを仕出かしてしまった。

「…そうか」

父親の言葉は重さを持って、そこへ留まり続けていた。


夕方には、激しく降り続いていた雨も嘘のように止んでいた。
父親はあの後から出掛けていて帰ってきていない。

「ただいま」

「澪…おかえり」

「灯りもつけないで…真っ暗じゃない」

そう言って灯された眩しさに、暗闇に慣れたおれの目は少しの痛みを感じた。

「お父さん?…なにかあったの」

心配そうに顔を覗き込んでくる澪に、おれはすべてを話した。
最初は驚きはしていたものの、澪は大人しく聞いていた。
そしてすべてを聞き終えるとスッと立ち上がり、情けなさからまだ澪の顔を見れないでいるおれに優しい声音でこう言うのだ。

「大丈夫よ、お父さん」

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