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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第4章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 

 だが、プラトニックであれ、何かしらの感情が二人の間にかつてあったのだとすれば、紗英子にしてみれば二人にまんまと騙されたような気がするのは当然だった。いや、プラトニックだからこそ、余計に嫌なのだ。肉欲だけの交わりであれば、所詮はそこまで。しかし、身体よりもより深い部分―精神的な繋がりがあるのなら、その方がよほど厄介といえよう。
 しかし、ここでこれ以上事を荒立てるのは、けして利口とはいえなかった。大切なのは、たとえ二十二年かかっても、やっと直輝が心の奥にしまっていた大切なものを紗英子にも見せても良いという気持ちになった―そのことだろうと思う。
 むろん、はるか昔に有喜菜には見せた大切なものを紗英子にはずっと見せなかったことは、実は重大な意味を持つとは理解している。が、ここで騒ぎ立てれば、直輝の心が自分から離れていくのは判っていた。
 だから、今は我慢する。
 私は直輝の妻。たとえ彼が大切なコレクションを有喜菜にだけは見せたとしても、彼が人生の伴侶として選んだのは、この私なのだ。有喜菜なんかに、彼の心は渡さない。
 立場的には、有喜菜よりも自分の方がはるかに優位なのだから、こんなことくらいで動揺する必要はさらさらない。子ども同士の他愛ない出来事だと笑い飛ばして、毅然としていれば良いのだ。

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