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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠

―大丈夫ですよ、卵巣が両方共に健康な状態で残っているのであれば、見込みは十分あります。一緒に元気な赤ちゃんが授かるように頑張りましょう、お母さん。 
 院長はまだ妊娠もしていない紗英子に対して、お母さんと呼びかけた。三十五年間の人生で、〝お母さん〟と呼ばれたのは初めてだった。電話を切ってから、紗英子は一人、ひっそりと涙を流した。
 確認したところによれば、確かにかかる費用は莫大なものだ。紗英子の貯金だけでは当然足りず、実家の両親にも頭を下げて頼まねばならないだろう。
 紗英子一人の我が儘なのだから、直輝や彼の実家は当てにできない。
 更に、紗英子にはまずしなければならないことがあった。

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