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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦

 父の言葉はもっともではあった。
 母は黙って父娘のやりとりを聞いていたかと思うと、ひっそりと言った。
―私も大方はお父さんと同じ意見よ。でも、紗英子の気持ちも同じ女としてよく判るわ。私の場合は幸いにも紗英子という娘に恵まれたし、何しろ昔のことだから、代理出産なんて想像もつかない時代だったもの。でも、今は医学が発達して、私たち年寄りが想像も及ばないような方法で子どもを得ることができる。叶うならばと藁にも縋る想いで試したいと願う紗英子の気持ちも無理はないと思うのね。
 結局、父は渋面で紗英子の頼みを受け容れ、治療費の一部を負担してくれることを約束した。
―上手くいくと良いわね。
 帰り際、玄関まで見送ってくれた母のひとことだけが救いだった。
 月日は流れ、紗英子と有喜菜は何度か共にS市のクリニックに通い、必要な処置を受けた。こういう治療は非常にデリケートなものなので、すべてが予定どおりにいくとは限らない。が、今回は順調に進み、紗英子の卵子も数個、良好な状態で取り出せた。

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