テキストサイズ

Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦

 あの男の子どもを生むという事実と、途方もないお金と引き替えに、私は何を失ったの? 自尊心、それとも、小学校時代からの親友?
 いいや、そんなものは最初からいはしなかったのだ。それとも、最初は親友であった存在がいつしか自分たちも気づかない中に、そうではなくなってしまっていたのか。
 最早、どうでも良いことだ。有喜菜は涙を流しながら、何故か大切なものを永遠に失ってしまったような気がしていた。
あれから三ヶ月近くが経った。紗英子とは既に幾度もこのクリニックに通い、互いに励まし合った。
―きっと上手くいくから、大丈夫よ。
 何度、その言葉を唱え合ったかしれない。
 だが、表面上はこれまで以上に親密になれたと思えるこの関係が、実は上辺だけにすぎない空々しいものであることに有喜菜はとうに気づいていた。
 果たして紗英子は、それに気づいているのかどうか。有喜菜は、相変わらず涙ぐんで〝良かった〟を連発している紗英子を突き放した眼で眺めた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ