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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦

 彼女が妊娠について会社にどのような報告をするのか判らないが、間違っても紗英子や直輝夫婦の名を持ち出すことはあるまい。どんな説明をされようが、紗英子には拘わりのないことと割り切っている。
 五時に会社を出て、近くの個人病院で注射を受けて電車に乗っても、もう着いても良い頃合いだ。N駅もそれなりに大きいが、隣のM駅は更にひと回り大きく、地下街も色々な店が居並んでいる。
 なので、二人はM駅の地下街で待ち合わせ、どこかの店に入ろうと話していたのだ。改札を出た場所に立っていると、側を様々な人々が通り過ぎていく。仕事帰りのサラリーマン、学校帰りの女子高生たち。
 時に人波に押されそうになりながら、背伸びして有喜菜を探していたところ、向こうから有喜菜が小走りに駆けてきた。
「ごめん、紗英。遅れちゃったわね」
「もう! 約束を忘れたのかと思ったわよ」
 紗英子が軽く睨むと、有喜菜は茶目っ気たっぷりに片目を瞑った。
「ごめん、ごめん。病院の方が少し混んでてね。これでも大急ぎで走ってきたんだから。駅の階段も二段飛ばしよ」

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