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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦

 もちろん、有喜菜の腹の子が有喜菜自身の子どもなら、紗英子だって妙な干渉なんてしない。母子ともにどうなろうが、それは有喜菜の好きでやることで、紗英子の知ったことではない。
 だが、今、彼女の胎内にいる赤ん坊は紗英子の大切な我が子なのだ。有喜菜の好きにさせておいて、万が一、子どもに何かあれば後悔してもしきれないではないか。
「それはまあ、確かにあなたの言うとおりね」
 紗英子はやや鼻白んで言い、もう殆ど冷めてしまったパスタを気のなさそうにつついた。
 有喜菜はといえば、紗英子に受けた忠告なんてまるで聞いていなかったように、山盛りのフルーツパフェを小さな匙で掬って口に運んでいる。その傍らには、とうに空になったパスタ皿があった。
 それにしても、よく食べる女。
 紗英子は苛々としながら、有喜菜の健啖ぶりを眺めた。今、長い髪は一つのシュシュで結わえられている。美人はどんな格好をしても様になるもので、そういう姿さえ、有喜菜の仕種はドラマのワンシーンを眼にしているようだ。

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