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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦

 元気な赤ん坊さえ受け取れば、後は一切、私に有喜菜の生活について干渉する権利はない。それは一見、もっともでありながら、どこか理不尽な要求にも思えた。我が子がもしかしたら危険に晒されるかもしれないのに、そんな状況をみすみす見ないふりをするなんて。
 その後、二人はろくに会話もないままに店を出たところで別れた。
 私がした選択は正しかったのだろうか?
 他人の腹を借りてまで我が子を得たいと願ったのは、やはり人としての道にもとるものだったのだろうか。
 三ヶ月前、代理母出産を希望すると宣言したときの夫の表情がありありと浮かんだ。
 子どもが生まれるというのは神の領域なのだ。だから、妊娠・出産を人為的に操作するのは神の意思に反するのだ。あの時、直輝は主張し続けた。更には彼はこうも言ったのだ。
 子どもがいないのは淋しいけれど、これからは夫婦二人で穏やかな日々を紡いでいこう、と。でも、あのときの自分は頑なに代理母出産に拘り続け、結局、有喜菜を代理母として選び、決行した。結果として、有喜菜は妊娠。

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