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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦

 紗英子自身にはその自覚がなかったとも考えられるが、結局、紗英子はそう取られても仕方のないことをやってのけだのだ、あのときは。
 まあ、恐らくは無意識の中に―女の勘というヤツで、紗英子は何となく有喜菜を煙たく思っていたに違いない。一年のときは有喜菜と直輝が同じクラスだったから、二年になって二人が離れ逆に紗英子と直輝が同じクラスになったのがチャンスとばかりに猛アタックした、それが真実だろう。
 あの時、奥手で優柔不断な紗英子のどこに、男子に猛アタックするほどの勇気と決断力があったのかと、有喜菜はただただ信じられない想いであった。
 直輝はどんな気持ちで紗英子の告白を受け容れたのか。その場で快諾したというくらいだから、彼もまた有喜菜など眼中になく、紗英子だけを見つめていたのか。
 だが、であれば、何故、彼は紗英子に妻となってからも見せなかった大切な宝物を有喜菜には早くから見せてくれたのか。今となっては、直輝の心を推し量るすべはない。

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