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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第8章 ♦RoundⅦ(再会)♦

「よう、来たな」
 先にめざとく気づいたマスターが笑顔で手を振る。いつもながら、糊のきいた白いシャツに黒と赤のギンガムチェックのベストと赤の蝶ネクタイ。伊達男(ダンディー)という言葉は、このマスターのためにあるのではないかと思うほど似合っている。
 今は若い連中は男も女もそれなりに装うことを知っているから、皆、町を歩く若者は見劣りはしない。タレントやモデルではなくても、それなりに綺麗な若者はたくさんいる。
 でも、幾らオシャレをして上辺だけを取り繕ってみても、こういう燻し銀のような魅力や輝きは、若者にはけして出せない味だ。マスターの端正な面には若い頃はさぞかし男前だっただろうと思わせる名残は十分に残っている。
 上辺だけでなく、長年の人生で重ねてきたものが内側から滲み出ていて、彼の豊かな年輪を感じさせる雰囲気がまたマスターをより魅力的に見せているのだった。

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