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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第9章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦

「震えてるじゃないか」
 笑いを含んだような声色で言い、有喜菜の肩をそっと抱き寄せた。かと思うと、いきなり膝裏を掬われ、抱き上げられた。
「直輝?」
 狼狽えて呼べば、直輝は愛おしさのこもったまなざしで有喜菜を見つめた。
「心配するなよ、ちゃんと優しくするから」
 これでは、まるで初体験の少女のようだと思ったけれども、大切に扱われて悪い気はしなかった。
 直輝は有喜菜を部屋の中央にある大きな寝台にそっと降ろす。部屋は深いブルーの色調で纏められており、下卑た雰囲気はなく、むしろオシャレでカジュアルなイメージだ。もっとも、最近は利用するカップルも多いから、いかにも連れ込み宿的なホテルは敬遠され、流行らないのだろう。競争が激しいのは、どの業界でも同じ理屈だ。
 その日は土曜日で、二人は昼前に待ち合わせて和風割烹で軽く軽食を取ってから、ここに来たのだった。

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