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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第9章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦

 直輝が有喜菜の髪の毛をひとすじ掬う。唇を寄せられ、妖しい震えがまた全身を走る。まるで髪の毛一本一本にも神経が通っているかのようだ。
「俺の子を産むのは君だけだ」
 掠れた声が耳朶を掠め、また戦慄にも似た快感が四肢を走り抜ける。知り合ってから二十四年目にして、今日、有喜菜は初めて直輝に抱かれた。そのわずかな時間で、生まれて初めての絶頂を知り、女としての歓びも哀しみも知り得たのだった。

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