
Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第10章 ♦ Round 予知夢~黒い霧~♦
紗英子は微笑み、明るい希望に満ちたまなざしを夫に向けた。しかし、次の瞬間、直輝の口から出たのは、世にも信じがたい科白だった。
「別れてくれないか」
〝え〟と、紗英子は自分でも愚かしいと思えるほど、無防備な声を出した。直輝の静かすぎる表情にほんの一瞬、憐憫とも悔恨ともつかぬ別の感情が浮かび消えた。
「自分が今、どれほど残酷なことを口にしているかは判っている。だが、俺たちはもう終わりだ。俺は今度のことでつくづく思ったよ。俺とお前の望むものはあまりにも違いすぎる。俺が犯してしまった罪といえば、そのことにもっと早く気づくべきだったということだ」
紗英子は縋るような眼で夫を見た。
「どうして、どうして、そんなことを言うの? やっと、やっと子どもに恵まれたのに。私たち、赤ちゃんが生まれて、これからまた新しくやり直せるんじゃなかったの?」
「無理だ。俺はもう、お前とは歩いていけないよ」
苦渋に満ちた顔で断じた夫が紗英子はまるで見知らぬ他人のように思えた。刹那、彼女の中で閃くものがあった。
「別れてくれないか」
〝え〟と、紗英子は自分でも愚かしいと思えるほど、無防備な声を出した。直輝の静かすぎる表情にほんの一瞬、憐憫とも悔恨ともつかぬ別の感情が浮かび消えた。
「自分が今、どれほど残酷なことを口にしているかは判っている。だが、俺たちはもう終わりだ。俺は今度のことでつくづく思ったよ。俺とお前の望むものはあまりにも違いすぎる。俺が犯してしまった罪といえば、そのことにもっと早く気づくべきだったということだ」
紗英子は縋るような眼で夫を見た。
「どうして、どうして、そんなことを言うの? やっと、やっと子どもに恵まれたのに。私たち、赤ちゃんが生まれて、これからまた新しくやり直せるんじゃなかったの?」
「無理だ。俺はもう、お前とは歩いていけないよ」
苦渋に満ちた顔で断じた夫が紗英子はまるで見知らぬ他人のように思えた。刹那、彼女の中で閃くものがあった。
