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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第10章 ♦ Round 予知夢~黒い霧~♦ 

「怒らないで。大きな声を出したら、赤ちゃんが起きてしまうわよ」
 ムキになる紗英子とは反対に、有喜菜は至って落ち着き払っている。
「誰もそんなことを言っているのではないの。それに、何が正しくて間違いだったかなんて、それこそ天の神さまにしか判らないでしょう。ただ」
 有喜菜は言いかけ、口をつぐんだ。紗英子から視線を剝がし、ベッドの側―窓越しに何かを見ている。
「ただ?」
 沈黙に堪りかねて問うと、有喜菜は視線を窓の外に投げたままで呟いた。
「ただ、判っているのは、二十四年前、あなたが直輝を好きだったように、私も彼を好きだったっていうこと」
 そのひと言に、紗英子は鋭く息を呑んだ。
 やはり、有喜菜も昔、直輝を好きだったのだ! 

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