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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠

だが、今の夫の言葉は、はっきりと紗英子という人間そのものを拒絶していた。
「あなたが私についてどう感じていたかはよく判ったわ。でも、なら、何で今なの? もう幾ら身体を重ねたとしても、赤ちゃんはできないわ。そんな無意味な行為に、何の価値があるというの?」
 紗英子は淡々と言った。
 直輝が形の良い眉をかすかに顰める。
「別にセックスは子作りだけのためにするものじゃないだろ。夫婦の間のコミュニケーションのためでもあるし、男と女の愛情表現としての手段じゃないのか?」
 男と女の愛情表現としての手段。
 思わず笑ってしまう。この男は一体、何を考えているの? ここまで妻を言葉で貶めておいて、今更、愛情表現の手段ですって?
「おい、何がおかしいんだ。俺は真剣に話してるんだぞ」
 普段はあまり怒らない直輝が露骨にムッとした表情を見せている。
「今になって、よく言うわね。お生憎さま、今度はあなたが〝義務〟とやらから解放されて、その気になったのかどうか知らないけれど、私が嫌なの」
「お前、自分が何を言っているのか、判ってるのか?」

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