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チェーンな2人

第2章 もう、お別れなんて…

ふーっ と息を吐き

軽く涙をぬぐった








私は、来た道を帰ろうと

ゆっくり振り向き

うつむいたまま歩いた



ふと

通路の出口へと目を向ける










あれ?











通路の入り口に

誰か立っている
















警備員のような

制服を着ている

ここの職員さんのようだ











20代半ばの、その男性は

姿勢よく背筋を伸ばし

ピクリとも動かず

私をじっと見ている












その手には

通路を施錠する為であろう

鍵のついた

長いチェーンを持って…















そして

私に言った

とてもゆっくりとした

丁寧な口調で



















『もう、いいですか?』






と・・・。














暖かい言葉が

胸を打ち

私はまた少し

泣きそうになった










チェーンを持った男性は

私が帰ろうとするまで

声もかけずに

ずっと待っててくれたようだった




早く施錠して

しまいたかっただろうに…




見ず知らずの

私の気持ちを

大切にしてくれたんだ





この人にも

愛する人がいるんだろうか…










『ありがとうございます

 もう、大丈夫です』













頭を少し下げて

その男性に告げ

私は立ち去ってしまった








もっと

感謝の気持ちを伝えたかったのに

若かった私は

どう言えばいいのか

わからなかった









寂しく冷たくなっていた

私の心が

少し暖かくなるのを感じていた


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