
どらくえ3
第1章 旅立ち
「アベル!アベル!わはははは!」
豪快な笑い声。
父オルテガがたくましい腕で俺を抱き抱える。
俺も父さんにしがみつく。
まだ俺が小さかったころのこと。
俺は父さんが大好きだ。
強くて、優しくて、かっこいい。
俺のあこがれ。
俺の父さん。
でも父さんはまた俺に背を向けて旅立っていく。
悪いモンスターをやっつけるんだ。
みんなのために。
それが俺の父さんの仕事。
帰ってくるたび、傷が増えてる。
いつか帰ってこないんじゃないか、と思って怖くなる。
でも、俺は我慢しなくちゃいけない。
父さんは強い。
きっと悪いモンスターをみんなやっつけて、きっと帰ってくる。
そう信じて。
町から出ていく父さんの背中は大きい。
「父さん、頑張って!」
俺は目一杯、大きな声で手を振って、できる限り元気に父さんを見送る。
父さんを心配させないように。
振り返って、父さんは俺に言う。
「母さんを頼んだぞ!」
俺は口に手を当てて
「任せとけー!」
と叫んで返事をする。
母さんは、俺の隣に立って、旅立つ父さんと俺の様子を見て優しく笑っている。
そして父さんは母さんに
「エリナ、愛してる!」
と叫ぶ。
母さんが照れて
「ばか言ってないで!早く行けー!」
と叫び返す。
父さんは母さんの返事を聞いてはにかんで笑う。
そして俺達の顔をじっと見る。
目に焼き付けるように。
「じゃあ、ちょっと行ってくるぜ!」
心を決めたように、父さんはガッツポーズをしながら、俺達に背中を向けて歩き出す。
そう、戦うために。
小さくなる父さんの背中を俺と母さんはいつまでも見送った。
母さんが小さく呟く声が聞こえた。
「早く行って、
早く戻ってきてよ。」
母さんの目から一粒だけ涙がこぼれるのを俺は見た。
これが俺が父さんの姿を最後に見た幼いころの記憶だ。
