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向かいのお兄さん

第34章 何で





『…』



何も

言えなくなった




これ以上、言い返されるのが怖かったから…




あたしは黙ったまま


直也に背中を向けた





最後に


『今日のメール…返してね』


怯えた羊みたいに


ガタガタと震わせた喉から出た


必死の言葉





それすらも直也は返してくれずに


また


仕事に取り掛かった











あたしが玄関の扉に手を掛けたとき


後ろから女の声が聞こえた





「ほら、ちゃんと汗拭いてよね」




って





だからあたしは


後ろを振り向いた





造花店の従業員に紛れて


由紀先輩の姿が目に入った






あたしと同じ大学の


あたしと同じサークルに所属している


由紀先輩…




何で



そんなところにいるの…?





清潔そうなタオルで


汗をかいた直也の顔を


優しく拭いていく







やめてよ…










『意味わかんなぃ…』







あたしは


悲しみと怒りに任せて




扉を思い切り閉めた







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