向かいのお兄さん
第35章 彼女
まだ
外はどこか薄暗い
湿気を帯びた空気が、肌に纏わり付くようだった
ピンポーン
玄関の前で、インターホンを鳴らす
部屋の中からは、人の歩く音が聞こえた
その音が玄関に向かって来る間の短い時間に
あたしはいろんなことを考えた
まず、なんて言ってやろう?
思い切って抱き着いてみたり、チューしてやろうか?
何でもいいや
どっちみち、直也に会えるんだから…
ガチャ
と開いた扉の、いつもの高い位置に
直也の顔は無かった
そのかわり、その少し低い場所に
見たくない顔があった
「あ…美咲ちゃん?」
『…由紀先輩…』