向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
独り言にしてはやたらと大きな声だったから、とっさに振り返った
やっぱり思ったとおり、女の人はあたしを見ていた
『ポカポカしますね』
極上の笑顔を作って
返事する
「もう帰っちゃうの?」
『…』
あなたがいるからねー…
「良かったら、座る?」
女の人は少し腰を右にずらし、あたしが座るためのスペースを空けてくれた
ここで断るのは、もったいない気がしたから
『…ありがとうございます』
早歩きで近づいて
あたしもベンチに座った
目の前にはあたしの町が、遠く遠くまで広がっていた
「この辺りの人?」
『はい、そうです』
女の人の、見た感じは四十歳くらい
でもどこか上品で、でもどこか弱々しくて、顔は真っ白だった
「今日はお散歩かしら?」
『そうですねー…なんか、暇だったし』
いい匂いがした
すごく落ち着く匂い
風が運んでくれるそれは、彼女のものなんだとすぐにわかった