向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
天気はポカポカしていた
頭がぼんやりしてきそうなくらい平和に思えた
どこからか子供の楽しそうな声が聞こえて
どこからか車の走る音が聞こえて
どこからか吹いてきた風が、全身を包み込んだ
『のどかー』
田んぼ道が続いてるわけでもないし、周りが山ばかりという田舎くささがあるわけでもない
ああ、わかった
あたし地味に、この町が好きなんだな
錆びれた歩道橋を渡ると、足を進めるたびに揺れた
下を通過する車に向かって、ちょっと手を振ってみたりする
向かい側から散歩中の犬と出会って
微笑みかける
久しぶりだな
いい子ちゃんぶってるあたし
もう少し歩くと小高い丘が見えてくる
廃れた遊具が並んだそこは、あたしにとっては思い出の場所
あたしが小さかった時はもっと賑やかで、お母さんとよく遊びにきてた
『…』
てっきり、忘れ去られた領域なんだと思ってた
だからあたしは、一人でそこでボーッとするつもりだった
なのに、残念
町が見渡せるベンチには、白髪交じりの女の人が座っていた
そこは、あたしの特等席なのに…
今度また、直也と来よう
来た道を戻ろうとした時だった
「いい天気ですねー」