向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
「どいて、道を開けて…!!!」
病院に到着すると女性はすぐに降ろされ、直也もあたしも走って彼女についていった
苦しそうな呼吸と表情を見せる彼女に…
車に乗ってるみたい
周りの人たちが、次々と後ろへ消えて行く
あたしの視界に映る世界で、止まっているのは彼女だけ
病院の人も、直也も、他の患者さんも
どんどん動いて行くのに
「ご家族の方はここで…!」
看護婦さんにそう止められたのは、手術室の前だった
「っ…」
直也の足がピタッと止まったから、あたしも急ブレーキを掛けた
直也を見ると、たぶん、最後に「母さん」って呼びたかったに違いない表情を浮かべていた
『…』
騒がしかったものが扉の奥へ連れて行かれると、辺りは急に静けさに包まれた
同時に緊張と不安も、足元からよじ登ってきた
『…座ってよう?』
そう直也に声をかけるので精一杯だった
直也は引きずるような足取りで、あたしが指した長椅子へと向かってくれた